羊皮紙とは

「羊皮紙」とはなんでしょう。
イメージとしては、ふるーい古文書、宝の地図、ハリーポッターやファンタジーの世界・・・。映画などで見たり聞いたりしたことはあるけど、本物は見たことない。そういう方がほとんどではないでしょうか。

羊皮紙って「紙」なの?

羊皮「紙」というくらいだから紙なのでしょうか。いいえ、答えは「皮」です。「羊皮紙」ではなくて、「羊皮」と書くべきなのかもしれません。

詳しくは作り方のページに紹介してありますが、おおまかに言うと、羊皮紙とは、「毛を剝いだ動物の皮を木枠に張って限界まで伸ばし、表面をナイフで削って薄くして乾燥させたシート状のもの」です。植物繊維をからませた「紙」とは根本的に異なります。
ただ、材料や製法を基にした定義的には「紙」とは異なりますが、「文字や絵をかくためのパリっとした薄いシート」という見た目の特徴とその機能を基にすると、「紙」と言ってもよいのかもしれませんね。

動物の形をした羊皮紙

では、普通の「紙」ではないとして、「革製品」とは何が違うのでしょうか。一般的にいう「革」(レザー)とは、動物の生の皮(「原皮」といいます)を石灰液に浸けて毛や脂肪などを除去し、それからタンニンや酸などに漬け込んで化学反応を起こさせ、線維構造そのものを変化させたもの。これを「鞣し(なめし)」といいます。原皮は乾燥するとプラスチックのように固くなってしまいます。鞣しはその漢字のごとく、皮を「柔らかく」して「革」にするプロセスなのですね。

一方羊皮紙は、原皮を石灰液に浸けて毛や脂肪などを除去するところまでは同じです。ただ、その後脱毛した皮を木枠に張って思いっきり伸ばして乾燥させます。線維を「化学的」に変化させるのではなく、「物理的」に延ばした状態で固定するのです。レザーとは異なり柔らかくはならないため、薄いプラスチックシートのような質感となります。羊皮紙を作ることを「羊皮紙をなめす」とは言いません。羊皮紙をなめすと普通のレザーになってしまいます。

皮はコラーゲンの線維からできていますが、通常は立体的かつランダムに絡み合っています。皮を四方から引っ張って延ばすことで線維が平面的に並ぶようになり、ハリがありつつもしなやかな「紙」のような質感になるのです。

そのようにして作られた羊皮紙は、皮でありながらも紙のようにハリがあり、かつインクや絵具の染み込みが紙よりも少ないため、顔料がくすまず鮮明な色彩を保ちます。

また保存条件が良好できちんと管理しさえすれば、羊皮紙を支持体とする文書や絵画は1000年以上もの時の流れに耐えることができるのです。

羊皮紙ってどんな種類があるの?

日本語では、「羊皮紙」というと即「ひつじ」を思い浮かべますが、実はさまざまな動物の皮が使用されています。主に用いられるのは3種、ひつじと山羊と仔牛です。それにしても、「仔牛の羊皮紙」というのも変ですよね・・・。動物種を特定しない「獣皮紙」や「皮紙」などという言い方もあるのですが、あまり一般的ではないため、このサイトでは、「羊皮紙」という言葉で統一しています。

表面のテクスチャや色合いなどは、動物種によって異なります。また動物種が同じでも、年齢、毛色、皮脂量などの違いによる個体差があります。羊皮紙は天然素材。ひとことで「羊皮紙」といっても一枚として同じものはないと言っても過言ではありません。動物種による違いについて詳しくは、「動物の違い」のページをご覧ください。

右から:仔牛、羊、山羊

羊皮紙、パーチメント、ヴェラム

日本では「羊皮紙」という言葉が一般的ですが、英語では「パーチメント(Parchment)」と言います。これは羊皮紙が発明されたと言われる古代都市ペルガモン(Pergamon)を語源とする呼称です。日本でも、本の装丁などの世界では「パーチメント」という言い方が好まれる場合もあります。

羊皮紙の中でも、仔牛皮から作ったものは特別に「ヴェラム(Vellum)」と呼ばれます。これはラテン語の「仔牛」= Vitellusを語源とした言葉。仔牛皮はサテンのように滑らかで、「上質なパーチメント」として差別化されていたのですね。しかし、羊皮紙制作において皮を薄く削ると、見た目では何の動物か判別できないため、上質そうに思われる羊皮紙は動物種に関わらず「ヴェラム」と呼ばれる場合も少なくありません。

余談ですが、英語でParchment(パーチメント)は、クッキーを焼くときに使うクッキングシートの意味もありますので、海外のおやつレシピに「クッキー生地をパーチメントに乗せてオーブンで焼く」と書かれていても、羊皮紙を使うわけではありませんのでお間違いなく。

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