羊皮紙の作り方

ここでは、羊皮紙の作り方をご説明します。羊皮紙はすでに紀元前から作られていた素材です。現在も、イギリスを始めとするヨーロッパ、およびイスラエルなどの国で作成されています。その作り方は、時代、地域、原料となる皮ごとにさまざま。ここでは、12世紀のラテン語文献に記録されている方法により、ひつじの皮を使った作成方法をご紹介します(まったく同じではないですが、ほぼ沿っています)。

山羊の原皮を水に一昼夜浸しておく。水から引き上げ、流水で洗う。水が透明になり汚れが出なくなるまで続ける。水槽に水と消石灰を入れ、よくかき混ぜて白濁液を作る。毛がついた方を外側にして原皮を半分にたたんでこの溶液に浸す。1日2〜3回棒で皮を動かしかき混ぜる。8日間浸したままにしておく(冬は2倍の長さ)。次に、皮を取り出して毛を取り除く。水槽の溶液を捨て、先と同様のプロセスを同量の新しい消石灰溶液で繰り返す。皮は1日1回棒で動かし、先と同じく8日間浸しておく。皮を取り出し、水が透明になるまで皮をよく洗う。きれいな水のみが入った水槽に皮を浸し、2日間置く。皮を取り出し、紐をつけて円形枠に縛り付ける。乾かす。そして鋭利なナイフで表面を削る。その後さらに2日間日陰で乾かす。水で湿らせ、肉側を軽石の粉で磨く。2日後、少量の水を肉側に振り掛けて再び湿らせて軽石の粉で磨き、さらに水で濡らす。紐をきつく締めて張力が均等にかかるよう調整し、シート状に固定する。乾いたら完成である。

A recipe for making parchment, British Museum Harley MS 3915, fol. 148r.(筆者訳)

原皮の処理

1 原皮を入手します。
牧場から直接送ってもらいます。これは食肉用のひつじの副産物として購入しています。

冷凍や乾燥させてあるだけの皮よりも、防腐のために塩漬けにしてある「塩蔵皮」のほうがよいです。
一般的に毛の色が皮の色に反映しているので、何を作りたいかによって選ぶ羊の種類が違います。

ひつじの原皮

2 水でよく洗い、塩と汚れを徹底的に落とし、2日くらい水につけておきます。
ここで完全とはいわずともある程度汚れをおとしておかないと、後工程で付着物が腐って大変なことになったり、皮にしみをつけることがあります。

石灰浸け

3 水を入れ替え、消石灰を入れます。
消石灰とは、園芸用にも使われている白い粉で、ホームセンターの園芸売り場などで購入できます。かつては学校の運動場のライン引きにも利用されていました。これは、強いアルカリで毛穴をゆるめて毛を除去し、表面の組織を分解してコラーゲン線維以外の部分を取り除くための工程です。

4 そのまま約8日間石灰液に浸けておきます。
反応の偏りを避けるため、1日に2~3回木や竹の棒でかき混ぜます。だんだんと真っ白だった石灰液が、毛に絡まっていた汚れなどが溶け出し、茶色く濁ってきます。浸ける期間は、気温によって異なります。夏は3~4日で十分でしょう。棒などで、毛をすくって、つるんとはがれたらちょうどよいころです。
そのままにしておくと、皮自体に穴が開いてしまったり、ひどい場合には皮がどろどろに溶けてしまいます。

石灰浸け

5 皮を石灰液から出します。

脱毛・肉削ぎ

7 皮を太い丸太か水道管に引っ掛け、羊毛をナイフで除去します。
ここからは、下の写真のようにカーブした「せん刀」というナイフを使用します。凸面に鋭利な刃がついており、凹面には刃が付いていません。しっかりと石灰が浸透していれば、ナイフの凹面で毛を「押し抜く」ようにすることで簡単に脱毛できます。

せん刀

8 せん刀で、内側に残っている肉や脂肪、そして毛側の表皮を削ぎ落とします。
まず鋭い刃の付いている凸面を使用して肉側をきれいにします。その後、刃が付いていない凹面を使用して毛側の表皮を取り除きます。
ひつじの皮は、表皮の下に脂の層があるため、この作業をしないとかなり脂っぽい羊皮紙になってしまいます。かなりしんどい作業ですが、破らないように注意しながらきれいにしていきます。

脱毛の様子(17世紀オランダ)
脱毛した皮

9 再び石灰水に約8日浸し、きれいな水に2日浸します。
この過程を再石灰浸けといいます。ひつじの場合は特に皮に脂肪が多く含まれるため、この過程を省くと非常に油っぽい羊皮紙になり、インクが乗らなくなります。根気が必要ですが、待ちます。もう一度くらい石灰浸けをしないと脂がとれない場合もあります。よい羊皮紙をつくるには根気と時間が必要なのです。

木枠に張って削り

10 木枠を準備します。
角材を組み合わせ、直径2cm程度の穴を開け、そこに先端に向かって細く削った円錐形の木を入れています。先端には切り込みが入り、そこに紐をかませます。この木の取手を回していくと、紐にテンションがかかる仕組みです。時代と地域により、円形の枠が使われることもありました。

木枠(『百科全書』より)

11 皮の縁にひもを取り付け、木の取手先端に巻きつけます。
まず対角線の4隅を枠に張り、それからなるべく均等な間隔で紐を通していきます。通すポイントは多いほど無駄が少ない羊皮紙ができます。製法によっては、棒を皮の縁に沿って刺し、その棒を紐で引っ張る方法と、石などを皮の縁で包んで、そこに紐を縛りつけて引っ張る方法もあります。

12 木枠に張り、取っ手を回してテンションをかけていきます。
テンションを調整しながらまんべんなく縁を紐で張っていきます。全体が張れたところで取っ手を回してさらにテンションをかけます。このとき、穴の状態も見ながら行います。穴が裂けることがよくあります。その場合は、別の場所に再度穴を開けてやりなおします。

13 半月刀で表面を削ります。
下の写真のようなナイフは、「半月刀」またはラテン語で「ルネラム」と呼ばれます。半月刀を皮に対して直角にして、削っていきます。まずは、水分が大量に搾り出され、脂肪分も出てきます。肉や皮のはがれも削ぎ落とします。表裏両方行います。逐次テンションを調整しながら行います。

半月刀
削りの様子(17世紀オランダ)

14 乾燥させ、軽石でさらに表面を滑らかにします。
均一なテクスチャとなるように軽石で磨きます。

研磨用の軽石

仕上げ

15 仕上げに、軽石の粉末(パミス)をまぶして布やスポンジ等でこすると、皮の線維の間にある脂が吸着されて除去されます。最後に、白く不透明にするために、白亜の粉(炭酸カルシウム)を全体に刷り込みます。

16 木枠から切り離して完成。
削り作業完了後、紐を切って木枠からはずします。この時点でサンドペーパーでサンディングしてもよいでしょう。

完成した羊皮紙

すべて手作りの場合、毛の生えた原皮からここまでの状態になるまでかかる期間は約3週間。1頭分の羊皮紙から採れるA4サイズは約4~6枚。その手間と時間がすべて価格に反映するため、中世ヨーロッパなどにおいて、羊皮紙は大変高価な書写材だったのです。

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