羊皮紙写本について

人間の歴史や物語は、はるか昔から羊皮紙に記され、現在にまで連綿と伝えられてきました。著者の文章を別の筆者職人が写し、その写しをまた別の人が写し、その繰り返しで本は作られます。このような手書き本を「写本」といいます。

純粋に情報伝達として文字が書かれますが、内容の区切りを分かりやすくするようにさまざまな工夫が凝らされました。その一つが、彩色です。文章の頭文字(イニシャル)を色付きにすることで、区切りが視覚的にわかりやすくなるのです。

さらに、単に色付けするだけでは物足りず、イニシャルの中に絵を描いたり、華麗な線描で装飾が施されたものも数多くあります。また、絵具だけでなく、金箔を貼ることでページをめくる際にイニシャルが光を反射して煌めく効果も生み出しました。

金箔と彩色が美しいイニシャル

余白にも装飾が施されます。多くは植物文様ですが、動物を描き入れたりと、時代や地域、工房によりさまざまなスタイルが確立しました。

中世末期のゴシック期には、ページの余白をとにかく埋める傾向がありました。そこで、文章が短い行には「ラインフィラー」(行埋め装飾)と呼ばれる装飾を描き、余白をつぶしたのです。

ラインフィラー

豪奢な写本には、ページ全体に細密画を描いたものもあります。

中世の羊皮紙写本は単なる情報伝達を超えた芸術品。完成までに数か月から数年を要し、複数の職人が腕を振るって制作するのです。そのような宝物を「所有」することがステータスの証。羊皮紙写本は王侯貴族に献呈されたり、裕福な家庭において結婚した娘へ贈られたりと、特別な意味を持っていました。

16世紀の彩飾写本

15世紀に活版印刷術が開発されて羊皮紙の手書き写本は紙の印刷本に急速に置き換えられましたが、近世、そして現代においても特別な用途には羊皮紙に手書きの文書が贈られるという伝統が続いています。

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