パピルス紙の作り方

羊皮紙作りとの比較考察のため、パピルス紙の作り方もご紹介。材料となるパピルス草が手に入りにくいのが難点ですが、羊皮紙よりもかなり作りやすい印象です。パピルス紙よりも制作に手間がかかるにもかかわらず、中世ヨーロッパなどで羊皮紙が主流となったのは、やはり動物の皮のほうがはるかに入手しやすい状況があったのでしょうね。

パピルス草の入手と仕込み

1 パピルス草を入手します。
温室のある園芸屋さんで売っているところはありますが、お近くにない場合はネット通販を探してみましょう。正式名称は「シペラス・パピルス」、和名は「カミガヤツリ」といいます。パピルス草は結構おしゃれ。室内インテリアとしても映えますね。

パピルス草

2 茎を根本からカットします。
カッターなどで根本から切ります。

茎を根元からカット

3 作りたいサイズの用紙の縦横寸法に合わせて茎を切ります。
作りたいパピルス紙の縦横寸法をあらかじめ考えておき、縦横それぞれの長さに茎をカットします。ここでは15 cm と 10 cm を何本か切りました。切り口は三角形です。これがピラミッドの形を表しているとのことで、古代エジプトではパピルスに特別な意味があると考えられていたようです。長ネギを切っているように見えますが、ある程度硬さがあります。

茎を短くカット
おにぎりのような切り口

4 外側の皮を剥ぎます。
包丁で3辺の皮を剥ぎます。繊維が縦に入っているので、切れ込みを入れると「シャーッ」と気持ちよく剥がれます。細い糸をピンと張った道具を使ってもよいでしょう。

皮を剝ぐ

5 皮を剥いだ茎を、厚さ2mmほどにスライスします。
2mmの厚さは紙にするには若干太めに感じますが、あとでつぶして平たくするので問題ありません。逆に薄くしすぎると、紙にしたときにモロくなります。これもサクっと気持ちよスライスできます。

スライスした茎

まるで大根のよう・・・。
どう見てもスティックサラダの大根にしか見えなくなり、ちょうど小腹が減っていたのもあって、パピルスを食べてみました。

パピルスを食す

ヘロドトスやプリニウスなど古代の名だたる学者たちが、食用としてのパピルスについて記述しているということで、一応安全であろうと考え、食べてみました。

(湿原のエジプト人は)毎年伸びるパピルスを湿原から抜き、その上部は切って別の用途に使用し、45センチほど残った下の部分を食べるか売るかする。真っ赤に焼けた炉で焼いて食べるのが一番よい。

ヘロドトス「歴史」巻二 92 (筆者訳)

(エジプト人は)またパピルスを生のままや煮て噛み、その汁のみを吸う。

プリニウス「博物誌」巻一三 22 (筆者訳)

味はありません。なのでドレッシングを付けて食べました。食感はシャキシャキですが、パピルス紙を永遠のものとしている強靭な繊維が口の中でモソモソとします。だんだん口の中が乾燥してきます。ついには呑み込めずに吐き出してしまいました。プリニウスの「汁だけ吸う」ということに納得です(味はないけど)。右の下側の写真がその繊維です。

ドレッシングを付けてパピルスを食る
パピルスの強靱な繊維

生の状態と煮た状態で食べてみましたが、煮たときにシャキシャキ感がなくなることのほかは特に違いはありませんでした。あまりおいしくないことが分かったので、引き続き紙にすることにしました。

※ パピルスの食品としての安全性を保障するものではありませんので、お試しになるときは自己責任でお願いいたします。

茎をつぶして格子状に配置

6 茎にローラーをかけます。
厚さ2mmほどに切った茎をローラーでつぶし、水分を出して薄くします。厚さ分がつぶれて、若干幅が広くなります。木槌などで強く叩いてしまうと繊維の間から裂けてきますので、軽くローラーがけがお勧めです。

ローラーがけ

7 水に約6日間つけておきます。
水を入れた容器に、茎を浸けておきます。シャキシャキのパピルス片を柔らかくし、プレスしたときにくっつきやすくします。この工程を省くと、接着が弱くパラパラはがれてきますので、大切な工程です。茎には空洞が多く空気を大量に含んでおり、プカプカ浮いてきてしまいますので、重しを乗せておきます。

水に浸ける時間が長いほど茎が茶色くなりますので、古色を出したい場合は長めに浸けておきます。

水に浸けておく

8 格子状に並べます。
水は絞らずに、そのまま格子上に並べます。この状態で木づちでたたくという方法もありますが、たたいているうちに線維がばらけて並びが崩れるため、このままプレスする方法をとります。下には布(寒冷紗)を敷いてあります。(布を敷かないと動かせないので)

茎を格子状に重ねて並べる

プレスして乾燥・仕上げ

9 重しを乗せてプレスします。
プレス機があればよいのですが、持っていないので本を重ねてプレスします。パピルスの上下にフェルトを重ねて水分を吸収するようにします。

プレスする

10 完成!!
乾燥させてトリミングすればパピルス紙の完成です。

11 表面処理
昔は軽石や貝殻などで磨いていたようですが、細目のサンドペーパーで表面を磨きます。また、防腐や虫除けのためにシダーウッドオイルを塗布したりします(これがいい香り)。オイルを塗ってもよくなじませればインクは乗ります。

表面処理

筆写

12 葦ペンとカーボンインクで筆記できます
古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩「イリアス」の第一巻冒頭部分を筆写してみました(筆写したのは市販のパピルス)。にじみもなく、サラサラと書きやすいです。中世ヨーロッパではおもに羊皮紙に染料インク(没食子インク)で筆写しましたが、古代エジプト、ギリシア、ローマでは日本の墨と同じようなススを使った顔料インクで筆写しました。ペンも羽ペンではなく葦ペンです。

パピルスへの筆写

13 巻物にします
木の芯にパピルスを巻きつけて巻物にします。古代ローマではパピルスを保護するために羊皮紙のカバーがつけられていたとのこと。また、書架に並べたときにすぐに見つけられるように羊皮紙のタグに著者名や表題などを記載しました。このタグはギリシア語で「σίλλυβος(sillybos)」と呼ばれるもの。大学の授業などで配布される「シラバス(講義要項)」の語源です。羊皮紙が登場したての時代、古代ローマでは主役はパピルスで、羊皮紙はその丈夫さから保護材として用いられていたのですね。

パピルスの巻物。羊皮紙のカバーとタグつき
巻物を開いたところ。中身はパピルス

パピルスを作ってみた感想

羊皮紙作りは毛と脂にまみれ、不快なニオイと戦い、分厚い皮を薄くするためにひたすら削る作業です。パピルス作りにおいては特に不快なニオイもなく、プレスするだけで適切な薄さのシートができる・・・とても便利な素材だと感じました。
歴史的に、パピルスが羊皮紙にとって代わられた要因は「作りやすさ」ではなく、原料入手と冊子形態での素材の丈夫さで羊皮紙のほうにメリットがあったからなのでしょう。

※ 羊皮紙ショップのページで、パピルス紙(輸入品)を販売しています。下記リンクをクリックするとジャンプします。

参考文献

  • 「パピルスの秘密~復元の研究」 大沢忍著 1978年 みすず書房
  • 「ギリシア・ローマ時代の書物」 ホルスト・ブランク著 戸叶勝也訳 2007年 朝文社
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